シュトゥットガルトの滞在しているホテルはInter Cityという駅に併設されているホテルです。このホテル、滞在中に都市交通機関(地下鉄や路面電車、バスなど)を無料で利用できるチケットをもらう事ができます。FMXの会場までは1駅しか離れていないのですが、このチケットがあると便利です。また、駅構内にコンビニやサンドイッチなどの売店があるので、ちょとした買い物や食事をすぐに買いに行けるのがうれしいです。
●Combining Ages for TRON: Legacy The Challenge of Digital Human Synthesis
前知識なしに本作品を見ると、クルーの頭がデジタル生成ですげ替えられていると気付かずスルーしてしまう人が殆どではないでしょうか。Eモーションキャプチャと呼称されるこの技術はいくつかのモーションキャプチャ技術を組み合わせる事で、現在のジャフ・ブリッジスの演技を基に30代の頃の彼をCGキャラクタで再現しています。 フェイシャル・アニメーションはFacs ベースのシェイプブレンドで表現されています。キャストとLifeステージから取り込んだジャフ・ブリッジスの頭部を基に30代の頃の頭部データが作成されています。またオリジナルのデータは、モーションキャプチャ時にデータが最初に読み込まれる頭部データとなります。現在のジャフ・ブリッジスの演技をデジタル化した後、30代の頭部データにリターゲットされるという流れです。フェイシャルキャプチャの場合、そのままキャプチャデータを割り当てても顔の比率の違いから破綻が発生するケースが多いのですが、最初に役者の頭部をデジタル化したものでフェイシャル演技をCG上に再現してからキャラクタの顔の稼働範囲と指標化することで破綻する事無く、フェイシャルをリターゲットすることが出来ます。
フェイシャルキャプチャにはヘッドマウントされた小型カメラ4台からトラッキングマーカーを収録して顔の動きをデータ化しています。体の演技は別の年代相応の役者で収録されています頭部にはトラッキングマーカーがセットされて、この動きを基にCGの頭とすげ替えられています。
フェイシャルとボディーが別々に収録された形になっている為、表情や口の動きが体の演技とシンクロするように、フェイシャル調整用のRIGが構築されています。各コントロールポイントを単独で動かす以外に口蓋や顎、まぶた等部分的に連携して動くようなセットも用意されています。これらは、細かなフェイシャルデータの修正の他に、例えば、口調が強調される部分の表情、口の形の調整や台詞の前後の表情の修正にも使用されています。
自分の職場でもフェイシャルアニメーションの案件が発生するケースがありますが、まず最初に課題となるのは、役者さんの演技を架空の顔に直接当てても破綻が激しかったり、思ったようにコントロールするのが難しい場合があります。フェイシャルの再現性は役者さんの顔自身で確認を行い、キャラクタの表情表現としての最適化の為にフェイシャルRIGを用意するという考え方は、制作プロセスが明確になるという点で、有効かもしれません。
●Rango – The Down and Dirty on ILM’s First Animated Feature
ILMとしては初のフルCGアニメーションとなる『Rango』ですが、これまで培って来たVFX技術とアニメーション表現を融合することで、自身のスタジオ色が出ている映像になっているように思えました。実写映像に如何に自然な違和感の無い架空の表現を組み入れて行くかチャレンジしてきた映像表現が、フルCGアニメーションのこの作品でも活かされています。
キャラクタデザインの手法では、各キャラクタのリファレンスとして実際の動物と想定した役者を掛け合わせるといった、VFXクリーチャーをデザインする様なアプローチでデザインされています。(映像を見続けて行くと、カメレオンのRangoが本当にジョニーディップのように見えてきます。このあたりの工夫は後述するアニメーションフローにも起因していると思います。)デザイン的に課題となったのは主人公のRangoの目だったそうです。キャラクタの表情において目の表現はとても大きな役割を果たします。Rangoの世界にいるキャラクタのほとんどが目を強調する方向性でデザインされていますが、カメレオンは元々露出している眼球が少ないため、デザインの段階で目の演技が効果的に見えるように苦労したようです。先述したリアリスティックな表現にする為にあまり実際の動物から意匠を崩せないという難しさもあったと思います。こうした課題をクリアしてデザインされたキャラクタは70体以上(メインキャラクタは16体)にもなり、デザイン画を基にZBrushでスカルプティングを行い、3次元的な調整を行った後、レンダリング用のデータが出力されています。
この作品では、最初に声を当てるキャスティングで最終的なショットと同じレイアウトで演技を収録してリファレンスとしています。ジョニーディップはRangoの演技を自身の体で演じています。このショットにはトラッキングマーカーやキャプチャースーツといったMOCAP関連の要素は一切ありません。衣装もキャラクタと同じようなものが用意されて、小物を使用した演技もきちんと小物を使用しています。この収録した映像をリファレンスに、アニメーターは各キャラクタをキーフレームアニメーションさせています。よくアーティスト自身が演技をして、リファレンスにする事がありますが、役者の演技エッセンスをアニメーターが自身の目で捉えて、キャラクターの動きとして変換しているというのは興味深い手法です。唯一MOCAP的アプローチを取り入れているのがカメラアクションです。近年活用例が増えてきているバーチャルカメラシステムを使用して、専任のカメラマンが両手でホールドして移動できる液晶パネルタイプのデバイスを使用してカメラアクションを収録しています。
●TRON 1982 – how classical animation boosted CG
今度は古い方のTRONのメイキングです。丁度、行きの機内映画で新旧を見ることが出来きて予習になりました。1982年の作品ですからもう30年近く前に製作されたことになります。自分と近い世代でこの作品の影響でCG業界に入ったという人は多いのではないでしょうか。(因に自分はThe Last Star Fighterでしたw)極初期の段階ではフルアニメーションやロトスコーピングなどのアニメーション技術でハンドドローイングで製作する事も検討されたそうです。結果として実写のエフェクト処理とコンピュータイメージで構成された映像表現になりましたが、いわゆるCGっぽい表現をハンドアニメーションで表現しているカットも相当あったそうです。ライトサイクルに変身する、実写とワイヤフレームの絡みは、当時は技術的に難しかったそうで、一部ハンドアニメーションによる表現を取り入れてたそうです。
CGI部分に関しても色々と工夫を凝らされています。ディズニースタジオは2Dのアニメーションスタジオだったため、プログラマとアニメータとのやり取りがひとつの課題となったそうです。現在のようにマウスでグリグリというような環境ではなく、空間座標を数値入力して行くような工程で直感的とはいえない環境でした。Xシートと言われる、タイムシートの形式にXYZ、Yoo、Pichといった動きの要素を加えたものも考案されています。数値による形状や軌跡の変化に関して、リファレンスが提示され、これを参考にアニメーション担当者はハンドレコーディングに近い感覚でフレーム数に数値を入力するという工程だったそうです。
人物の部分は色々な情報ソースにも掲載されていますが、白黒のイメージで収録した実写素材に対して、ロトスコーピングでマスクを作り、各素材をアナログ光学合成しています。この工程がスライドで紹介されましたが、これを人の手によって作り出したと考えると相当な労力だったのではないかと思いました。最後は人の手によるところが決め手になるのは今も昔も変わりませんね。
●Being a TD in the video game industry
ゲーム会社にTD(テクニカル・ディレクタ)として働くには?的な完全に学生向けのセッションでした。近年、日本のゲーム業界でもTA(テクニカル・アーティスト)がCEDECやIGDA Japanといった活動の場において存在感が大きくなっていますが、どうすればなれるのか?教育プログラムはあるのか?といった事がまだ明確になっていないのが現状だと思います。このセッションでは、現場で実際にこうした立場にあるプロのTDがどういうスキルが必要なのか、またそのためにどう学べば良いのかといった事が講演されて非常に興味深いです。
・TDの役割
最初に「TDはTAと違います」という事が解説されています。TDの役割としては、新しい技術やツールの調査、プロダクションワークのガイドラインの制定、チームのトレーニング、チームへのテクニカルサポートと日々のバグFIX、エンジンやツールの改良で、キャラクタやゲームデザインなど、様々なセクションに各リードクラスと並列の位置付けで置かれているそうです。この構成や役割の解釈が講演者の会社(Ubisoft)のフォーマットなのか、海外全般的なフォーマットなのかは定かではありませんが、日本で定義付けされているTAよりテクニカル寄りな要素を担当するような印象を持ちました。TDの担当する役割はプロダクションワークの初期の段階から始まり、プロジェクト終了までの間、プロジェクトの技術リサーチから始まり、各ソリューションのパイプラインへの組み込み、構築やユーザーへのトレーニング、環境で発生したバグのFIXと工程を追って役割内容が変わって行くのも特徴的です。このあたりはTAにも共通するのではないかと思います。
・TDの醍醐味
新しい技術やソリューションを色々試すことが出来ること、そして目的に合った解決方法を見つけ出した達成感と説明しています。そして憂鬱な面として、ドキュメンテーションの作成が挙げられていました。トレーニング、ガイドラインの徹底という面でドキュメント化への義務は日本よりは高いように思えました。こういう説明があるところが、いかにもリクルート関連ぽいです。
・TDになるためには
セッションの最初に「TDを志している学生はいますか?」という講演者の質問にかなりの数の学生さんが挙手していました。TDという存在の認識は広まっているようです。TDに必要なスキルとして、技術ベースのバックグランドを第一に、自分の活躍したいフィールド、例えばパイプラインなのか、キャラクターなのか、アニメーションなのかといったものを持つことは大切だと紹介しています。同時に他の分野に関しても常に興味を持って情報として吸収することも重要とのこと。これはTDが各セクション毎に求められるものが異なる事で、TD毎に専門化している状況がありつつ、れぞれのセクションは最終的にはパイプラインで統合されるため、自己のフィールドを明確にしてスキルを高めつつ、各TD同士の相互理解のために、フィールド外の知識も求められることに起因していると思います。
トレーニングの方法も紹介されていました。ごく一般的な方法ですが、ネットトレーニングやDVDトレーニング、本の活用(この点は海外には多くのゲーム開発に関する書籍やトレーニングツールがあるのは大きいと思います。日本はこの部分が情報が少ないのが不利ですね)、学校での授業プログラム以外に知識として身につける必要がある事が紹介されました。また、学生の時代から複数人数と共同作業を行うようなプロジェクトに参加したり、個人のプロジェクトを持つといった経験が大切だと述べています。デモリールはTDの資質をアピールするのが難しいので、自分のwebサイトを持って、自分が作成したテクニカル・マテリアルを紹介、ダウロードできるようにしたり、オンラインに自己のプロフィールを掲載するといった方法が紹介されていました。
TAとも類似している点が多いので、CEDEC等でディスカッションされているTAに関する現状や認識と通じるところが多くあると感じました。日本でもTAの必要性が高まっている状況ですが、これまでの自然発生的な人材の創出ではなく、役割として明確に定義した上で、その役割に必要なスキルと身につける方法を提示する事が必要なのではないかと思いました。
最後のセッションが終わると、同じ会場でSESIのリチャードとばったり会いました。前日もセッション会場で会ったのですが、時間があったら一緒に飲もうと話していたので、そのまま近くのレストランでプロシージャル最高とかHoudiniがどうとか、これからゲーム市場ってどうなるの?とかいった話で盛り上がりました。下手な英語につきあってくれた上にビールやらご飯を相当ごちそうになってしました。なにか良い形でお返しできるといいなと思いつつ、人通りの少なくなったケーニッヒ通りを歩いてホテルまで帰りました。ヤバい。。。日報書く時間が。。。