FMXの朝は駅のスタンドで朝食を買う事から始まります。昨日の日報に書いた通り、駅に併設されているホテルなので、カンファレンス会場へ行く準備を済ませてエレベータで降りるだけで、スタンドまではほんの数秒です。本日のメニューはレバケーゼのサンドにカプチーノ。これで4ユーロしないです。
●The Future of the VFX Industry
スコットロス氏がVFX CGスタジオ黎明期から現在に至るまでの特徴と変遷、今後VFX業界がどのようになって行くのか紹介しました。初期の段階ではアーティストとエンジニアの制作集団であったFXFXスタジオも、スタジオの統廃合、新しいスタジオの設立を繰り返す中で、業界が巨大に成長した事により、様々な面を持つようになりました。CG制作集団からプロダクションへ、そして大きな制作予算から成功を得る為に、マーケティングやリサーチを活用したプロダクションとしての機能が重要となっているそうです。
主たる市場である映画業界では、ムービースターの代わりに高度なCG技術を用いたバーチャルキャラクタの割合が多くなっており、より高度な映像表現を限られた予算の中で達成する為には、様々な面でグローバル化を進めて行く必要があるとの事。これは近年、北米のVFX CGスタジオがシンガポールやインドにスタジオを設立するといった動向が見られるそうです。(日本や韓国はスタジオ展開するには人件費、設備維持費の面で難しいとの事)もちろん、こうしたアウトソーシングには現地のトレーニングやプロダクション・マネージメントの課題は存在しますが、このカンファレンスで度々「グローバル・スタジオ」という言葉が使われている等、こうした流れは今後より顕著になって行きそうに思えます。VFX業界自体が現在大きな転換期にあるのかもしれません。アーティストという役割にも少なからずこうした業界の流れが影響を受けることが予想されます。さて、日本の場合はどうなるのでしょうか。。。
●King Kong 360 | 3D – Engaging Stereo Environments
ユニバーサルスタジオLAでリニューアルされたキングコングライドの映像コンテンツのメイキングです。LAのユニバーサルスタジオでトラムツアーに乗った事がある方なら、このコンテンツのリニューアルの形態がどのようなものかイメージしやすいでしょう。もし、忘れている方、ライドものに興味のある方は是非体験して欲しいアトラクションです。自分は昨年のSIGGRAPHの機会に乗りましたが、「ライドものでもまだまだやれる事はあるんじゃないの?」と思わせられる良い出来です。リニューアルされたキングコングライドはトラムツアーの形式はそのままに54mx10mの巨大スクリーンがトラムの両側から挟み込むような、ほぼ円周形のスクリーンに立体視映像が投影され、映像に合わせてトラムが傾いたり、風や水が掛けられるといった、約90秒のアトラクションです。
尺の短い映像ですが、ライドものなので1ショットで様々な生物やダイナミックス現象がアニメーションするシームレスに続く環境を構築する必要があり、細長いスクリーンでの立体視レンダリングやそれに伴うファーレンダリング最適化、9ヶ月の製作期間など、チャレンジのハードルが高いプロジェクトであったようです。この作品で使用されているデータは映画で使用されたアセットを再利用して、今回のアトラックションの為にアニメーションが作成されています。巨大な細長いスクリーンイメージをレンダリングする為に、片側につき5台のバーチャルカメラをトラムとスクリーンの仮想レイアウトに配置してレンダリングしています。立体視として有効的な背景効果として、木々が重なる奥行き感のあるジャングルを表現する必要があります。多重に重なるコンポジットを効率よくスマートに管理する為に、アバターのために開発された、deep compositeの技術が採用されています。これは、レンダリング時に各ピクセルの奥行き情報をデプスシャドウマップから生成して、コンポジット時に奥行きを考慮しながら、イメージを合成する技術です。これによって、木々が生い茂る奥行き感のあるジャングルが表現されています。この技術は興味深いですね。SIGGRAPHで論文発表もあるようです。
●3D Technology in Disney Parks: Opportunities and Challenges
ディズニーテーマパークのアトラクションにおける立体視や没入型体験アトレクションの開発事例の紹介です。過去の立体視シネマの変遷やディズニークエストで展開されている、VR技術のアトラクションへの応用について述べた後、具体的なアトラクションの開発事例としてトイストーリーマニアが紹介されました。全てのアトラクションに当てはまる事だそうですが、ディズニーのアトラクションは小さな子供からお年寄りまで楽しめる基準でユーザーインターフェースをデザイン、どの技術を取り入れるか決定づけられています。安全性、健康面、コスト、強度やプレイ出来るか出来ないか、といった多肢にわたる条件で検討されています。
トイストーリーマニアは、お客はライドに乗車して、クラシカルなミッドウェイアーケードの世界をトイストーリーのキャラクタのホストでバーチャル・アーケードゲームをプレイしながら進むアトラクションです。ゲームは偏光グラスでの立体視になっており、お客は移動するライドからフォローする状態で画面を見るケースもある為、立体視の調整に苦労したそうです。ゲーム内容がミッドウェイのクラッシックなアーケードゲームを題材にしているのは、ダイナミックスな現象で遊ぶこのタイプのゲームはゲームルールの学習速度が早く、達成するハードルが高いという点でアトラクション中に組み込むのに最適なゲームタイプであったのが理由だそうです。
最後にスターツアーズのリニューアル、カーズの没入型大型スクリーンを使用したアトラクションのプロジェクト映像が紹介されました。これらのアトラクションについても、個々に異なる課題をクリアする必要があったそうです。アトラクションの今後の課題としてHDサイズ以上の大きなイメージを活用したものへの移行が挙げられていました。前述のキングコング360の事例にもあるように、通常の映像制作とは異なり、アトラクションの映像にはインタラクティブ性やそれぞれの施設の特性を考慮して個々に対応して行かなければならないので、今後も試行錯誤が続く事が予想されます。
昼食はカリーヴォルト。ソーセージにトマトソース、カレー粉がたっぷり。これがクセになります。こんなのをスタンドで買って、広場のベンチで食します。若者からスーツ姿のサラリーマン、お姉ちゃんまでそんな感じ。席に座ってゆっくり食事する事も出来ますが、こんな感じで軽く済ましてしまう人が多いです。
●”Paul”: Performance Liberated and Amalgamated by the Animator
この作品は日本の公開がまだ未定のようです。エリア51から逃げ出した宇宙人ポールを旅の男2人組がかくまい、故郷に返そうとするといったストーリーです。(ハチャメチャギャグSFで面白そうです。)宇宙人のデザインがいわゆるグレイをイメージするものですが、かなり表情が豊かです。Paulのデザインでは表情の演技もできるグレイタイプのエイリアンという点に留意してデザイン検証が行われています。ZBrushを使用してPaulの様々な表情リファレンスを作成しています。また、他のフェイシャルアニメーション事例と同様に、ポールの声を担当するセスローゲンのPaulの演技をリファレンスとして収録しています。モーションキャプチャはジャイロと加速度センサーを使用したXsensにヘッドマウントカメラ(ケーブルレスでした。小型のムービーレコーダーを身につけているように映像では見えました。)を組み合わせたシステムを使用しています。フェイシャルキャプチャは収録した顔の映像をImageMetricsで処理しています。このシステムの特徴はアウトドアや純粋に演技するスペースさえあれば、モーションキャプチャの収録が可能な点です。メイキングでの映像では町中を走る収録をラップトップの収録システムでレコーディングしている様子が紹介されました。数年前までは光学式で小さなマーカーを顔にセットアップして収録する方法が多かったのですが、アバターの影響もあってなのか、イメージベースでフェイシャルキャプチャを行っている事例が増えて来ています。また、CGキャラクタと役者のフェイシャルマッチングにおいては、両者の表情リファレンスを作成して差分を指標化、微妙な表情変化に関してはアーティストがクリーンアップするといった流れがスタンダードになりつつあると感じました。モーションキャプチャに携わる立場としては、このあたりの運用方法は参考にしたいところです。
●Filming “Threesome” – Ballet meets 3D
バレエダンスの立体視ムービーのメイキング紹介です。セッション中に実際に立体視で作品の上映がありました。バレエを立体視で見せるという事自体でも、様々な試行錯誤があったそうです。通常、バレエの背景は暗く殆ど何も無いセットで見せる事が殆どのようですが、これでは立体視を表現しにくいということで、シンプルですが明暗のある背景がセットされています。布地がステージに敷かれているというのは、ダンサーにとっては前例のない事だったそうで、パフォーマンスするのに多少慣れる時間が必要だったそうです。
撮影は1台のカメラを使用してパフォーマンスをしている横でその場でカメラを移動させながらレイアウトを絞り込むという手法をとっています。即興的な要素も入ってくるので、その場で決めて行く事が多いようです。 撮影後のポストプロダクションでもダンスの立体視という点で、様々な調整が必要だったそうです。基本的な編集にはプレミアPRO、Depth grading作業にはアフターエフェクツが使用されています。当初はライブアクションなので、調整は多くないだろうと予想されていたそうですが、そのままでは立体視が混乱する部分もあり、きちんと奥行き感のある映像に仕上げる為には、ポスト作業に十分な時間を費やす必要があったとの事です。
3日目も終了しました。アフターFMXはやっぱりビールで乾杯でしょうw 今日はOさんにお店オリジナル醸造のビールがあるお店を案内してもらいました。小さなお店ですが雰囲気はばっちりです。5種類ものオリジナルビールがあり、どれも全く異なった味で美味しかったです。