GDC直前スタジオ視察の初日は、アメリカのゲーム業界では評価の高い、デジペン工科大学キャンパスを視察しました。デジペン工科大学は当時の学生が制作したゲームがValve社の目にとまり、チーム全員が雇用されて、後にPortalとなって発売されたというエピソードは日本でも耳にした事があるかもしれません。
私個人としては、自分がゲーム業界に就職した当時はビデオゲーム開発の教育機関は無く、実践でCGのスキルを身につけて来たという経緯もあって、年々複雑化、高度化するビデオゲーム開発の業界に送り込む人材をどのように教育しているのか興味のある事でした。
まずは、ざっとキャンパス内を案内していただきました。キャンパス内には学生の作品が展示されています。ビジュアルアートではドローイングやスカルプティングなどのカリキュラムが必須となっています。アニメーションの実習作品もありましたが、必須の基礎コースだけで、週3回、15週のカリキュラムが組まれており、更に本格的にアニメーションを学びたい場合は、それに対応したカリキュラムも用意されているそうです。講師はフルタムで40名ほど、現役のプログラマやアーティストがパートタイムで30名ほど講師を担当しているそうです。実際の授業も見学させていただきましたが、現役の方がゲームデザインの授業を行っていました。
キャンパス内にある自習スペースは広大なフロアに自由に使用できるPCが設置されています。プロジェクトチームでの制作活動も行われていました。キャンパスは12:00までオープンしており、このスペースが利用できるようになっているそうです。授業が、現役のプログラマやアーティストがパートタイムで担当しているカリキュラムもあるため、夜10:00まで行われる場合もあるとの事。結構な詰め込み具合です。
一通りキャンパス内を視察したところで、大学のSenior Executiveのレイモンド・ヤンさんから大学に関するお話と質疑応答に対応していただきました。現在、このキャンパスでは約980名の学生がゲーム開発について学んでいますが、大学の教育プログラムのコアとなる部分は開発を実体験する事、プログラムやビジュアルアーツ、ゲームデザインなど各分野をより深く掘り下げて、各分野の基幹となる部分を徹底的に身につける事に重きを置いています。ゲームエンジン等を利用した作品制作も許可を得て使用するケースもあるようですが、基本的にはエンジン部分も全て自前で学生が設計、作成しています。基礎的な部分という物は技術発展して、便利なものが表立つようになると、埋もれてしまう存在ですが、数学や物理学、コンピューターサイエンスといった基礎部分は普遍的なものであり、これを深く理解する事で、技術変化があったとしても、それを十分に理解して、新たな環境に対応、使いこなす事も難しくない、ということです。ビジュアルアートで言えば、前述したようなハンドドローイングやスカルプティング、ハンドアニメーションといった基礎部分を徹底的に身につける事が重要であり、こうしたスキルをっ身につけるカリキュラムをパスしなければ、デジタルでの制作授業は受けられないようなカリキュラム構成になっています。
興味深かったのは、ゲームは好きだがゲーム開発がどのようなものか分からない、という状況に対して、12才までを対象とした、ゲーム開発を体験するワークショップや高校生を対象とした、高校に通いながらのゲーム開発を学ぶプログラム等も行っており、大学進路を決める時点で、ゲーム開発者になる為に、どのようなスキルが必要なのか十分に理解している状態にするといった事も行われている点です。業界を志望する準備期間からの導線まで対応しているのには驚きました。こうした教育分野からの動きが急速に盛り上がった北米のゲーム開発シーンに貢献しているのだと思わされました。
私のような業界歴の古い者は、当時、ハード性能が低く、表現したいものに対して、様々な工夫を凝らしてリソースが少ない事をカバーしてグラフィックを表現するために、基礎的な部分を自らコントロールするようなアプローチを現場叩き上げ、子弟制度のような方法で学んで来たケースが多いです。デジペン工科大学のカリキュラムはそんな懐かしさを感じつつ、急速に技術変化するゲーム開発の今を授業の中でも感じ取れるような印象を持ちました。非常に魅力的なキャンパスで感動しました。
興奮状態のまま本日の視察は終了して、急いで空港に向かいます。18:00のフライトでLAへ移動です。到着が21:00と遅いので早めに空港のフードコートで食事。フィッシュ&チップスにスープ。もう食生活が乱れているような。。。明日はLAで映像系とゲーム開発系の視察です。