シーグラ日記2008 8月15日

SIGGRAPHも最終日です。あっという間といった感じで、余韻も無く、会場も昨日の午後から終わった場所から次々と撤収作業が始まっています。会場の人の数も1/3位に減ったでしょうか、無線LANが非常に快適に使えるようになりました。(笑)自分としては期間中、セッション漬けの1日でした。

因に昼食はOriginal Cafe Pantryに行って、チーズステーキサンドをいただきました。懲りずに利用していますが、日替わりメニューなども充実していて、メニューがかぶる事が無いのですね。

●Humans
・Group Motion Editing
群集の移動パスを変形したり、カット&ペーストして、エディットする環境の事例です。グループピングした、パス同士のコリジョン判定も可能です。パスを曲げた場合の移動スピードの変化やペーストする際の接続点の調整なども自動的に調整されます。ある程度、グループ単位のビヘイビアが出来上がっている場合は、こうしたアプローチで簡単にフィールドでの調整が向いているのではないかと思います。

・Continuation Methods for Adapting Simulated Skills
キャラクタに階段や坂道を上がる、物を押す、引くといった動作を学習させながら動きを生成します。何度かのシミュレーションで、歩幅の調整や足を上げる高さなどを学習します。フィジカルな計算が行われており、応用例として氷の上を移動する例が紹介さました。こうした法則的な運動の自動生成に感情的な動きを重ねることが出来ると、色々面白い表現ができそうです。

・Interactive Simulation of Stylized Human Locomotion
Three Link Modelとキャラクタモデルのポーズを使用して、キャラクタのバランスをシミュレーションしながらアニメーションを生成します。シーソーのような不安定な場所や段差を登るなど複雑なフィールドでもアニメーションを生成することが出来ます。現段階では直線上に歩行アニメーションを生成するのみですが、動きのバリエーションを増やし、自由なモーションパス生成が可能になれば、フィールドの中を自由に動き回るゲームにも応用できるかもしれません。

・Musculotendon Simulation for Hand Animation
手のアニメーションをを筋骨格シミュレーションで生成する研究。アーティスト向けのソリューションとして、MAYAでRIGが構築された環境が作成されている点が興味深いです。スキニングの結果に手の表皮に見られる、腱の表現がされているのも特徴的です。

●Lions + Whos + Hulks, Oh My!
・A New Approach to Procedural Character Rigs
『ホートン』におけるプロシージャル・キャラクターRIGの実例です。カトゥーン的で豊かな表現をアニメートするために、1体あたりに804のキー設定可能なオブジェクト、 7,042のキー設定が可能なアトリビュートという膨大なアニメーション設定を行う必要があったそうです。また、背景に同様のキャラクターが大量に登場するために、少ない入力でこれらの要素がコントロールできるような、プロシージャルなアプローチが必須になったそうです。例えば、ピーナッツ型の胴体に細長い手足が曲線を描いて曲がる仕組みは、アニメーター通常の2ボーンのIKでコントロールを行と、自動的に曲線がアップデートするような構造が構築されています。

・Art-Directable Dynamic-Hair Shells in “Madagascar: Escape 2 Africa”
マダガスカル2のライオンのたてがみ表現の事例です。通常のヘアシミュレーションだけでは、イメージした形状を保ちつつ、たてがみを表現するには色々問題があったとのこと。シミュレーションによるコントロールでは、必ずしも好ましい状態になってくれるとは限らず、ヘアのボリュームの見え方がイメージと異なっていたり、コリジョンが抜けてしまうなど問題が発生したそうです。
今回紹介されたアプローチはヘア・シェルと呼ばれるもので、たてがみの形状をメッシュでコントロールしています。たてがみのデザインに合わせてメッシュを設定すると、これを基にたてがみがレンダリングされます。メッシュに対してボディの動きを反映するようなRIGを構築することで、全身の動きにに対応して、たてがみが自動的にアップデートされます。
この事例以外にも、今年はシミュレーションやダイナミックスを、アーティストが直感的に表現しやすいレベルにインタフェース化、プロシージャル化しているものが多く見受けられました。

・Merging Bipedal and Quadrupedal Functionality into One Rig for “Madagascar: Escape 2 Africa”
2足RIGと4足RIGが切り替え可能なキャラクタRIGの事例です。マダガスカル1ではカットの切り替えによって、2足と4足の切り替えをうまくごまかしていたそうです。今回は主人公以外にも2足と4足の切り替えが必要なキャラクタが多く登場するために、2足と4足の切り替えが行えるRIGの構築にチャレンジすることになったそうです。過去、シュレックで同様なRIGを構築した実績があるそうですが、今回はキャラクタのプロポーションを2足時と4足時で変化させたり、手のコントロール方法が切り替わったり、足の階層構造がまとめられたりと、以前以上に高度な構造を持ったRIGになっています。実在する動物がモチーフですが、リサーチの段階で本物のライオンの骨格構造と自分たちが表現したい、キャラクタとしてのライオンの骨格を比較し、省いたり、解釈を変えたりしたそうです。肩まわりなどは人型に近い構造になっています。

・Don’t make me angry
Rhythm and Hues Studiosのハルクの変身シーンの事例です。骨格、筋肉の仕組みを構築して、その上にスキニングするという手法は、クリーチャーRIGではスタンダードな手法になっていますが、この構造を持ちつつ、プロポーションやシェイプを動的に変化させるというのは、新たなチャレンジだったようです。加えて、レンダリングによるルックスコントロールが重要だと思いました。いくつものレイヤーを異なるタイミング、異なる変化の仕方を重ね合わせる事で、更に生物感のある変化が実現されています。ゲームのアニメーション表現ではこの辺りは、まだまだこれからの話ですが、こうした事例を見ると、レンダリングによって実現されるアニメーション表現にも今後は目を向ける必要があるかもしれません。

●Performance Capture
Data-driven Modeling Skin and Muscle Deformation
モーションキャプチャデータから動きによる身体の震えるダイナミックス表現を生成する事例です。モーションキャプチャでは、格子状にマーカーを配置しています。モーションキャプチャシステムを使用した、動的3Dデジタイザといった感じです。
取得したデータを17の部分に分割し、この動きからスケルトンを生成して、キャラクタのメッシュをアニメーションします。この結果に加えて、格子状のマーカーから肉体の揺れを取得し、局部的な変形表現を行っています。筋肉の表現をRIGで表現する手法とはまた別のアプローチですね。デジタイズ的なモーションキャプチャシステムの使い方が面白いです。

Articulated Mesh Animation from Multi-view Silhouettes
複数のビデオカメラから収録した画像を基に、キャラクタメッシュやスケルトンを生成するモーションキャプチャです。あらかじめ、リファレンスとなるテンプレートポーズを作成して、取得しきれない部分を補っています。またアウト
ラインによる、形状の補完を行って、ディティールの精度を上げています。こうしたマーカレスのモーションキャプチャは今後、より精度を高めることによって、色々と可能性が期待できると思います。

Performance Capture from Sparse Multi-view Video
カメラから取得した点群を基にトラッキングを行い、動きを生成するモーションキャプチャです。ディティールのついたオブジェクトも一緒に得ることが出来るという点が特徴です。メッシュ取得向けにハイレゾリューション、トラッキング用にローレゾリューションといったように目的に応じて使用するデータを取得しています。

Markerless Garment Capture
これもマーカーレスのモーションキャプチャシステムです。こちらは衣類に限定しています。欠損した部分をいかに補かについて研究が行われています。この例では、取得したメッシュに対して、リファレンスポイント(首、裾、腕)を基にマッピングを行い、どのように欠損しているのかを分析することで、欠損部分を補おうとしています。裾や袖口などはマッピングを行ったジオメトリを参照して、再構築されています。

●Bend Me Break Me
Rope Bridge Animation System in “Kung Fu Panda”
『カンフーパンダ』の吊り橋シーンのメイキングです。キャラクタとのインタラクションやアニメーターによる物理的な挙動をアニメートするために、吊り橋のRIGが開発されています。吊り橋の4本のメインとなる綱はカーブをベースにダイナミクスのソルーバーが割り当てられ、アニメーターが任意に形状をハンドリングするも可能です。本編でロープがねじれたりする演出があるのは、こうした2重のコントロールができるためでしょう。ああいう表現はシミュレーションだけでは難しそうです。手すりに張り渡されているロープの部分はクロスシミュレーションによって表現されています。

Procedural Fracturing and Debris Generation for “Kung-Fu Panda”
『カンフーパンダ』の刑務所の崩壊エフェクトの事例です。次々と崩れ落ちる破片のエレメントが更に衝突して2次的な崩壊エフェクトを発生させています。こうした複雑なエフェクト効果を実現するためにはプロシージャルな手法は必須と言えます。オブジェクトの崩壊は3Dペイントによってパターンが設定されています。2次的な崩壊エフェクトを生成するために、大きな破片のコリジョン領域を計算して、この場所からパーティクルを発生させていますが、この際に衝突領域のパーティクルの速度やベロシティなどが計算されています。

CrackTastic: Fast 3D Fragmentation in “The Mummy: Tomb Of The Dragon Emperor”
『mammy3』の陶器でできた兵隊がやられる際の崩壊エフェクトの事例です。崩壊というとフィジカルシミュレーションによるアプローチがありますが、今回紹介された事例はより高速にクローズしたオブジェクトを分解破壊するテクニックでした。影響点をオブジェクト上に設定すると、これを基に分裂ポイントをフィジカルな計算方法で設定して、自然なオブジェクトの分割を行い、リジットベースのダイナミックスアニメーションが生成されます。これらの環境ががHoudiniのフレームワークに組み込まれているのは個人的に興味深いです。

Making Statues Move
『Mammy3』の動く馬の銅像のエフェクトの事例です。全身の動きの変化に伴い、亀裂が開いたり閉じたりといった表現によって生き物の表皮の変化に似たエフェクトが表現されています。これは、像を構成しているプレート単位で表面上をスライドさせるために、2Dコリジョンモデルによってコントロールが行われています。今回の場合、ベースとなるオブジェクト上をスライドするような表現であるため、このように高速にコントロールできる2Dコリジョンモデルが使用されているようです。衝突した際には、金属プレートがカール状に曲がるような効果も加えられています。こうした細かい作り込みを行うためには、大局的なレベルで、簡単にコントロールする事が求められますが、現状ではシミュレーションを直感的なコントロールに落とし込むことが、ひとつのキーワードになっているように感じます。


これで、今年のSIGGRAPHが終了しました。5日間、これから1年間で消化しきれないほどの宿題やら、ネタやら、パワーをいただきました。締めは地下鉄で便利になったUniversal City WalkでWall eを見てきました。日本では12月公開の予定ですが、年末映画としてはジーンとくる良い作品です。久々のLA SIGGRAPHの参加でしたが、公共交通の利用が便利になった事、Nokiaシアターなど施設の充実などを考えると、SIGGRAPH入門としては最適なのではないかと個人的に感じました。開催期間については、日本の事情ですが盆休みはさけてほしいところです。

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