シーグラ日記‘04 -8.11-

SIGGRAPHも後半に差し掛かった。大体の1日の行動パターンも安定する。カンファレンスが朝一番である場合は日本で生活しているよりも早い時間に起きることになる。朝一番のカンファレンスは8:30から。このシーグラ日記をアップロードしたり、1日のスケジュールを確認したりと意外と慌しいので、6:30には起床しているような感じだ。朝食はあちこちに点在しているスタバでラテと激甘のマフィンで済ます。スタバは沢山あるのだが、はっきり言って日本のほうが格段に美味しい(笑)


Feature Creatures
様々なタイプのキャラクタセットアップ関連をまとめたSketch。実際に映像製作で作成されたキャラクターRigの事例を見ることが出来る、自分にとってはとても有用なカンファレンスだった。

I, Robot: Character Pipeline, Tools, and Methods
日本でももうすぐ公開される「I,Robot」のRigingの事例発表。ツールはMAYAを使用して、細かな挙動にまで対応するロボットのRigが構築されていた。このプロジェクトでは520ショットのCGIがありその殆どにキャラクタが登場して、ボディアニメーションだけでなくフェイシャルやハンドアニメーションなど細かな動きが必要な内容だった。またショットによって、2足であったり4足であったりと異なるコントロールタイプのRigが複数必要であった。このため、複数タイプのRigが用意されたが、最終的な出力は同じ骨格で対応できるようにワークフローが構築された。これは自分の仕事でも体験したことで、今回プレゼンテーションされたRigほど複雑な構造ではなかったが、構築するのに苦労した記憶がある。後述する様々な仕組みも含めて、開発にはAliasDeveropmentCenterの強力があった。スピーカーはADCのサポートを非常に高く評価していた。ロボットの筋肉の表現はチューブ状のオブジェクトで表現されており、スプリング的なシミュレーションとダイナミックスによって表現されている。2次的なアニメーションなので、この部分は主要な間接を編集するとしかるべき挙動が自動で生成されるようになっている。そのほか、フェイシャル、眼球の挙動、など全ての挙動がコントロールできるRigが用意されて、スクリプトによるセッティングでLODタイプのRigも自動作成できるようになっていた。 この作品はRobotが主人公ともいえる内容であり、内容的に人間とロボットの関係やロボットの存在について語られる内容であるため、人間と同等の表情表現、そして人間には不可能でありながらどこか人間的な動きを感じさせる動きが必要となったため、このような複雑なRigが必要不可欠になったのだと思った。作品自体は見ていないのでこのRigでどこまでロボットにキャラクタ性を表現することが出来たのか、帰国後に作品を鑑賞するのが楽しみになった。ネタバレが極力なかったのもうれしい。(笑)

Throwing A CGI Curve Ball: Cartoony Character Setup on Chicken Little
ディズニーフューチャーアニメーションが本格的なFullCGアニメーションに挑戦した第1作目「Chicken Little」を例にして、ディズニーの3DCGに対する考え方、アプローチ、実例が紹介された。
ディズニーフューチャーアニメーションの3DCGに対する考え方は、「2Dアニメーションの手法を3DCGに置き換える」といったものだ。こうしたアプローチによる作品作りは過去にも事例があったが、このカンファレンスで紹介されたこのアプローチを実現するために様々な新しい挑戦が試みられている。Sketchy Sketchesのセッションで紹介されたようにスケッチライクな線を描くことでアニメーションポーズを付けるツールはChicken Wierという名前でこのプロジェクトで実際に使用されている。また、2Dアニメーターを3Dアニメーションに移行させるために複雑なRigの階層構造を参照することなく、ノードを選択するセレクティングツールも用意されていた。こうしたクリエイティブ環境に加えて、アニメーション作成のガイドラインも2Dアニメーション的な要素が取り入れられている。いわゆるタメ、キメの考え方が実践されており、アニメ同様1フレームで急激にポーズが変化する2Dアニメーション的なコマ割りが3DCGアニメーションが実践されている。ポージングも非人間的なトリッキーなポーズが多い。スケルトンは変形するための手段でしかなく、必ずしも骨の挙動が人間的なリミットが必要というわけではない、という考え方だ。ここまで徹底した3DCGによる2DアニメーションライクなフルCGアニメーションは事例のデモ映像をみると通常の3DCG映像にはない、気持ちよさを感じることが出来る。
Sketchy Sketchesのセッションとこのセッションで、ディズニーのアニメーションが本気で2Dアニメーションを3DCGアニメーションへ今まで培ってきたノウハウをダイレクトに表現できる体制で移行しようとしていることを強く感じる。3DCGでありながら2Dアニメーションを徹底的に表現したものがどのようなものになるのか作品の公開が楽しみだ。

The Tar Monster: Creating a Character With Fluid Simulation
Scooby Doo 2に登場する、タール状のモンスターの製作事例。このモンスターはドロドロの液体状でありながらある一定の形を保持しており、また動きの中で完全な液体への変化もあるというもので、ドロドロの液体表現のため流体シミュレーションが応用されている課題となるのは流体シミュレーションをキャラクタのシェイプに追従させること、局部的に流体シミュレーションによる変化を抑えること(顔の部分)が挙げられていた。表情の出る顔の部分はアニメーションしたサーフェースを保持した状態にするために、流体シミュレーションの影響度をグレースケールのマップデータでコントロールしている。影響度をアニメーションすることで、形状を保持した状態から完全な液状の状態へ変化する表現にも応用されている。

Bulging Muscles and Sliding Skin: Deformation Systems for Hellboy
ティペットスタジオのヘルボーイのクリーチャーアニメーションの事例が紹介された。この映画は行きの飛行機で上映されており、丁度良いタイミングだった。内容はB級映画のノリで個人的には好きな内容だった。クリーチャーは複雑な形状のデザインで筋肉表現がされており、良く動いている。筋肉シミュレーションはRigと連携さして動く仕組みになっている。挙動の原理自体は既にいくつかの作品で使われているようなものだが、デザインが筋肉のディティールを見せるようなものになっているので、細かい部分まで表現されている。これにスキンオブジェクトがかぶるのだが、非人間的な動きもするため破綻する部分が発生するため、サーフェースのポイント自体がブレンド、スライドするような仕組みが組み込まれている。(/p>

機器展
1日短くなった日程に加えて、社用的に様々なデモンストレーションや打ち合わせに出席する関係で、ざっと見て回るのが精一杯。とりあえず、個人的に立ち止まってみて回ったものをピックアップしてみた。ちなみに機器展の規模がかなり縮小されていた。各社ともブースの広さがかなり小さめになっている。

Apple
なんと今年一番大きなブースでの出展はApple。入り口にドンと大きなブースを構えて、プロ向けの映像製作ソリューションの紹介を行っていた。ぽつりとTigerのプレビューバージョンの展示も行われていたのはラッキー(笑)

nvidia
おなじみ「クールなイラストレーションをドローイングしてQadoroをGetしよう!」コンテスト。毎年行われているが、参加者が多くて盛り上がっている。

naturalmotion
昨年、こじんまりとしたブースでプレゼンテーションしていたendorphinが今年は実機デモを交えて大きなブースで展示されていた。既に幾つかのタイトルでの使用例もあり、ブースでも映像が流されて注目されていた。

Kydara
なんと、Aliasに吸収されたニュースが。当面は双方の技術がMAYAとmotionbilderに組み込まれるような形で個別の製品として展開するらしい。SIGGRAPH期間中に発表される。既にデモンストレーションされていたバージョンはAlias|motionbilderになっていた。

Point Grey Research
IEEE-1394仕様の小型カメラをぐるっと円周状に配置してマトリックスデモを披露していた。カメラはかなり小型化されたもの。そのほかにもイメージベースライティングの素材撮り使えそうな広角小型カメラなどが展示されていた。

 

SensAble Technologies
PHANTOMの廉価版、PHANTOM Omniが展示されていた。フィードバックの具合は体感的には今までのものとあまり変わらないが、値段が半額ほどになっているのは驚き。それでもまだコンシューマでお手軽に買える値段ではないので、更なるプライスダウンを今後に期待したい。さらに半額なら結構市場があるかも知れない。

Side Effects

今年はブース展示が復活。今年の機器展の中でも大きなブースに入るくらいの広さでVer7.0のプレゼンテーションが行われていた。

nvidia
最新のグラフィックカードのでもキャラクタを大掛かりなパペットシステムを使ってリアルタイムにコントロール。う~ん、すごいですな。キャラクタはボイスとフェイシャル担当、腕の演技をつける担当の2人制。

 

Alien Brain SweeitDemo
アセットマネージメントツールのデモンストレーションを見学させていただいた。日本ではこれからどんどん導入されることが予想される。作成したデータ(マップやモデル、アニメーション、プログラムコードなど)をサーバーで一括管理するというもの。バージョン管理も同時に行われるので、最新のデータを使って日々のコンバート、コーディングが行われる。日本のゲーム製作では大作傾向があり、プロジェクトにかかわるスタッフの数が雪だるま式に増える場合が多くなった。今まではアナログ的な方法で問題なかったデータ管理もこうしたツールを使用してきちんとした管理が出来るようにサポートする必要性が高まってきている。昨年もデモンストレーションをしていただいたのだが、当初は映像製作現場で活用されていたマーケットが1年でゲーム製作現場での活用例が圧倒的にシェアが大きくなったという。

Softimage SweeitDemo
リリースされたVer4.0の機能、キャラクタSDKのデモンストレーションを見せていただいた。基本的ないくつかのRigタイプを構築するスクリプトコマンドが提供されて、パラメータの変更やコードの変更により必要なRigの機能を簡単にセットアップできるもの。テンプレートBipetでジョイントやコントロールポイントを変更したり、エレメントを追加して、スクリプトを起動すると、設定した間接数やプロポーションで複雑な挙動が組み込まれたRigが完成する。こうした仕組みで生成されたRigでは体格の異なるプロポーションへのモーションデータの流し込みなおし(リターゲッティング機能と呼ばれていた)が可能になっている。日本の現場ではRig製作はTDだけでなく、アニメータやキャラクタといったアーティストが担当する場合もあり、こうした複雑な仕組みをある程度簡単なスクリプティングで実装できるのはありがたい。ただ、現状では日本語のドキュメントがリリースされていないので、すぐに試したい場合は翻訳しながらの検証になるので、意外と重い仕事になるかも知れない。
XSIに関しては$495という価格改定のニュースが発表されて、驚いた。そのままの円換算すると6万円ほど・・・ただし上のパッケージではMAYAよりも高い価格設定になっていること、スクリプトオペレータが使用できないという点が個人的にはちょっと気になったところ。最近のパッケージソフトウェアではスクリプティングによる柔軟性が詠われる事が常識となっている中で、カスタマイズが出来ないという点は、基本的な機能でカバーしていなければお手上げ状態になってしまう。コンシューママーケットでのMEL等によるカスタマイズがどの程度行われているのか把握していないのでなんと言えないが、個人的にはサポートしてほしい機能だった。トライアルバージョンは30日間の期限設定があるものが提供される。

VJ – The Art of Live Video Performance
SIGGRAPHでVJに関連したイベントは幾つか開催されたことはあるが、カンファレンスでこれだけ大きく取り上げられたのは初めてではないだろうか。数人のプレイスタイルの異なるプレーヤーがスピーカーとして参加して、まずは各自のプレゼンテーションがビデオやムービーで紹介される。内容としてはVJとはどんなものなのか、そしてどのように表現されているのか、カンファレンススタイルだが、ざっくばらんにプレーヤーへの質問などを織り交ぜながらの進行であった。出足は少しカンファレンス色が強い内容で、少し面白味に欠けた内容だったが、後半は各プレーヤーのスタイルの説明や、実際のデモンストレーションなどが行われて盛り上がる。全体的にはVJって実際はどんなものなの?といった紹介プレゼンテーションのような内容であったが、様々なプレイスタイルの紹介があって、なかなか面白い内容だった。個人的にはJITTERで構築されたターンテーブルと連動したビデオスクラッチの機能を実装した事例が面白かった。


カンファレンス後はAliasのアジア地区のパーティー、SIGGRAPHのレセプションへとなだれ込むような状況。期間中は視察メンバーはばらばらに行動することが多いので、同じホテルに滞在していても会う機会はこういったパーティーの会場が多かったりする。レセプション会場はダウンタウンの中心部にある公園で開催される。公共の施設を借り切ってCGネタで大規模な飲み会が開催されるのはSIGGRAPHならでは(笑)会場で視察メンバーや日本から参加した顔見知りの方々と盛り上がる。レセプションが始まって数時間経過しているのにもかかわらず、人は結構多い。オープン間もないタイミングの会場は動くことも大変な状態になる。

11:00には終了時間になって会場を追い出されても飲みが足りない一行はさらにホテルのバーで3次会に突入。良い具合に壊れている(笑)