SIGGRAPHカンファレンスが今日からスタート。朝はシャトルバスでコンベンションセンターまで移動できるのだが、自分が滞在しているホテルはルートの起点・終点になるので、意外と待ち時間が長い。加えて、色々巡回するので、待ち時間が長いと歩いた方が早かったりする。歩きだと大体15分ぐらい。道もまっすぐ。因みにシャトルバスに乗るために、ホテルでチケット代わりのっリストバンドが配られる。バスの運ちゃんはちゃんとチェックして無い様子だが・・・(笑)
Anyone Can Cook Inside Ratatouille’s Kitchen
「レミーのおいしいレストラン」の料理の表現をピックアップしたカンファレンス。料理の表現でHalf Dayのコースが企画されるというだけで、細かなディティールへのこだわりが感じられる。自分が特に面白いと思ったのはやはり、アニメーション部分。料理とか食べ物は静的なもので、あまり動きというものは無いが、料理の盛り付けや食材の積み重ね、落下による挙動など、ほんのちょっとした動きにも様々なアプローチが用意されているのに驚いた。
Making Cuisine . Techniques for Creating Visual Detail
Soft Body Simulation
食物の柔らかさを表現するためにソフトボディシミュレーションが使用されていた。ダイナミックスシュミレーションであるため、本来、静的である食物をレイアウトするには、挙動を停めるオプションが必要だったとのこと。積み重ねられた状態を意図した形状にするために、コリジョン用のプレートを配置して、食物が意図した積み重なりになるようにコントロールしている。
Layering
料理の盛り付けには低い重力をソフトボディに与えることで、柔らかで、適度な重量感を表現している。食材はソフトボディで相互に影響するので、ほぼ静的な状態であるが、皿を動かすと、きちんと盛り付けに影響が及ぶようにセットアップされている。事例で紹介された帆立貝の料理は物語中でもっとも多くの出番がある料理であるため、このような細かな仕込が施されていると感じた。見えるところにはきっちり手を入れている。
Rigid Body Simulation
ゴミの体積の表現は料理のレイヤリングとは別の手法で表現された。ゴミをレイヤリングのように積み重ねただけでは、意図したビジュアルを作り出すことが出来なかったこと、コントロールがとても大変だったので、別のアプローチで表現することになった。ゴミの蓄積を幾つかの層にグループ分けを行い、レイアウトした状態で、Zmapでコリジョンプレートを作成し、更にリジットボディで積み重ねるというプロセスを数回行うことで表現されている。
Cooking Effects
包丁で食材を切り刻むカットでは、包丁を入れる位置を設定することで、包丁は位置に水平に切るように動き、オブジェクトはブーリアン計算によって、切り刻まれたピース単位のオブジェクトに置き変えられた。切り口には外皮と中身に分けられてそれぞれ個別にシェーディングも割り当てられる。本当に包丁で食材を切り刻むような挙動がそのまま表現されている。
生地をこねるシーンでは、生地は容積を一定に保つように設定されたコリジョンつきのスプリングオブジェクトで、調理台との接地、ハンドアニメによる挙動を設定することが出来るように仕込まれている。変形はキーシェイプを設定することで実現されている。
スープやソースの表現ではパーティクルで液体が注がれる挙動を作成した後、メッシュオブジェクトにコンバートされて、ライティング、シェーディングが追加されていた。部分的に流体シミュレーションも使用されている。
アニメーション以外でもシェーディングやライティングに関する事例が紹介された。ScatterやGummiを活用して、食物の透過感と密度の違いから発生するランダムさ、影の落ち具合など細かなディティールにこだわって、絵作りがされている。キャラクターや派手なエフェクトと異なり、目立たない料理の表現ではあるが、生理的に「美味しそう」というどの人でも大きなブレのない表現にきちんと向き合って表現していることは実はとても難しいことなのだと、このセッションをみて痛感した。事前に映画館で作品は鑑賞してきたのだが、改めてみると本当に「美味しそうな料理」が表現されている。
From “Shrek” to “Shrek the Third”: Evolution of CG Characters in the “Shrek” Films
映画シュレックシリーズの1から3までのキャラクター関連の変遷を紹介するセッション。出発前にシュレック3見てきたのだが、(行きの機内映画でもやっていたのがちょっと損した気分)表情が明らかに豊かになった印象を受けた。その他にも細かなところで技術の変遷や作品ごとに求められる要求に対応して、色々な改良が加えられている。シリーズもので、同じキャラクタに対して、シリーズを重ねるごとにどのような改良が加えられてきたのが、内容の充実したセッションだった。
キャラクタ関連の部署構成
アニメーター以外にキャラクタTD、キャラクタTDという部署が存在する。キャラクタTDは完成したモデルにスケルトンを追加し、編集用のRIGを構築したり、キャラクターアニメーションの作業効率を図るための環境整備を行っている。キャラクタFXはキャラクタに付加する小物や洋服など、また服の破れや物との絡みなど、キャラクタ本体以外でキャラクタに関連するエフェクトを担当している。キャラクタFXという部署は日本ではあまり聞きなれない分担かもしれない。通常はキャラクタ担当が受け持つことが多きのではないだろうか。担当する内容を見ると、シーンによって特別に発生するようなものが多く、技術的にもチャレンジのハードルが高そうに思えた。そういった意味で専門の部署があるというのは、様々なチャレンジを回避することなく成功へ導かなければならない、長編アニメーションならではの部署だと思った。
キャラクタシステムの変遷
シュレック
フェイシャルシステム
主役キャラクタのボディにはシンプルなマッスルシステムが組み込まれている。
1体当たりのセットカップに12~14週掛かっている。
クロスはドレスやすそなどに若干。基本的にはスキニング。
シュレック2
フェイシャルシステムに若干の改良を加えている。
ボディのシステムはほぼ同じだが、首、喉仏、顎の部分にマッスルが追加された。
1体当りのセットアップに10~12週掛かっている。
クロスはデザインがきっちりしたもので、裾などの部分に重力による揺れを追加している。若干のバリエーションあり。
シュレック3
フェイシャルにボーン、マッスルが組み込まれている。
全てのキャラクタのシステムを作り直した。つま先のアニメーションシステムが追加されている。
1体当たりのセットアップに6~8週掛かっている。
クロスはルーズなデザインのものに対応して、皮膚とのスライドも表現されている。バリエーションも増えている。
ヘアシステムの変遷
以下の3つのアプローチをベースにしてキャラクタごとに適切なアプローチを選択している。これに加えて作品ごとに特化した仕組みやルックスを追加しているとのこと。例えば、最新作では長い髪でカーリーヘアーといった今までに無かったヘアスタイルに対応している。
1.Clumps
2.Guide Curve
3.Surface
ヘアのアニメーションに関しても、タイトルごとに最適なアプローチを検討している。
Hair Collision Smooth
長靴猫の毛のふさふさ感を出すために、コリジョンによってヘアがベントするシステムを構築した。
Rigid Rod Simulation
髪長姫のような長い髪の毛のアニメーションシステムを追加。
ヘアチームといった部署的な分担は無いとのこと。
Generic Character
シリーズを重ねるごとにGeneric Characterのバリエーションが増えている。効率よく多くのバリエーションキャラクタを作る事に関して、シーンからの需要が強くなってきたことが伺える。シュレック1でもキャラクタが少ないといった印象は無いので、作成できるキャラクタバリエーションに適正なシーン作りがされているのではないかと思った。
シュレック
バリエーション 3パターン
クロス 4アセット
ヘア 3アセット
シュレック2
バリエーション 2パターン
クロス 8アセット
ヘア 5アセット
シュレック3
バリエーション 2パターン(マッスルを追加)
クロス 5アセット
ヘア 3アセット
キャラクタFXの変遷
作品ごとに発生する特別な対処方法が必要なショットでキャラクタに関わるエフェクトを担当している。
シュレック
基本的なクロスの実装、服のすその部分、ドレスなど
1キャラクタに付き1バリエーションのみ
シュレック2
ルーズな服装の挙動への対応、服の部分的な破れの表現など
1キャラクタにつき1バリエーションだが、若干のバリエーションの追加があった
シュレック3
裾の広がっている、クラッシックなドレスの挙動、生地のコリジョンアニメーションなど
キャラクタにより複数のバリエーションがある。
新しいテクノロジーを必要とするシーンを実装することが殆ど。細かなディティールをシリーズを重ねるごとに追加している以上に服のバリエーションへの対応が変遷の解説を聞いていて大変なことだったと感じた。皮膚と衣服がこすれてスライドする、といった細かなディティールへの対応もあったためなのかもしれない。1カットしか存在しないような特別なFXにも専門部署で常にチャレンジしている点が素晴らしいと思った。
全体を通して、制作側のキャラクタ開発の変遷を見てから、改めて作品を見返すと色々な発見があるのではないかと感じた。特に気にすることも無かったが、シリーズを重ねるごとに登場キャラクタが多くなっており、Generic Charactorのバリエーションも増えている。物量的な増加に加えて主役キャラクタのクオリティがアップされている。スタッフの増員といった要素もあると思うが、キャラクターセットアップの期間がシリーズを重ねるごとに短期間になっているという点でスタッフのスキルアップによるところが多きのではないかと思った。シリーズものの唯一のメリットかもしれない。
SIGGRAPH PAPER First review
SIGGRAPH全日程で発表されるPAPERの宣伝をスピーカーが限られた時間で行うという内容。2時間のセッションだが、PAPERの数が尋常で無いので、スピーチは3分弱といったところ。まじめに宣伝する人もいれば、ウケ狙いのものもあって、お祭り色が強いのだが、どのPAPERを見ておくかチェックする材料にもなる。会場は2つつなげて拡張しているにも関わらず、席が満席になるほど盛況だった。