ジーディーシー日記 -6日目-

GDC2008

GDC最終日。しかし、今日も17:00までたくさんのセッションが行われる。昨年と比較して、セッション会場の席が埋まりやすくなっており、セッション間に30分の休憩時間があるのだが、10分前にはいると、人気のあるセッションでは席がなくなっていたり、Fullで入れなかったりする場合も。年々参加者人数が多くなり、E3の影響もあって、会場のキャパシティが不足気味になっているように感じる。

●Creating a Caracter in DRAKE’S FORTUNE
Anchartedでのキャラクターアニメーション事例。膨大化するアニメーションリソースを効率的に実装するためにプロシージャル的な手法を採用した事例。このタイトルのエネミーは多くの細分化されたバリエーションアニメーションをAIで状況に応じて組み合わせて、コントロールされている。いかに多くのバリエーション感を出し、かつリソースをコンパクトにするか、といった工夫がされてる。これはプレイヤーキャラクタにも応用されたとのこと。

・Animation Locator
アニメーション同士のコネクションは重心のロケーターを基準として繋がれている。もうひとつ、ターゲット・ロケーターで移動目標が示される。例えば、移動→物陰に隠れるといったシーケンスの場合、移動アニメーションと隠れるアニメーションの間に予備動作(前転など)を加えることにより、状況によってアクションにバリエーションを出している。

・Animation Layer
移動アニメーションに対して、例えば、怯えの状態をレイヤーという概念でアニメーションをブレンディングしたり、ノイズを付加する、あるいは表情を変更する、といったバリエーションの生成を行っている。これにより、例えば、30Fのループアニメーションに対して、300Fのノイズを追加して、フェイシャルを変更するといったレンジの異なるアニメーションを組み合わせて、ループ感のないバリエーションを作成することができたとのこと。

・ADDITIVE ANIMATION
ベースアニメーションに対して、1フレームのポーズデータを使って、例えば、銃を構えるアニメーションに対して「方ひざを立てて銃を構える」、「中腰に構える」などのアニメーションバリエーションを生成している。また、Look-ATやAimといった目標を状況変化に対応してプロシージャルに上半身や目をコントロールしている。

GDC2008
GDC2008

後述するASSASSIN’S CREEDでも、アニメーションのレイヤーコントロールというアプローチがとられている。こうしたプログラマブルなアニメーションテクニックは、うまく使えば、バリエーションの増加やリソースの節約に有効かもしれない。

●Taming the Mob: Creating believable crowds in ASSASSIN’S CREED

GDC2008

群集の表現とそれに対するプレイヤーキャラクタのインタラクションに関する事例が紹介された。ASSASSIN’S GREEDで表現されている群衆は以下のようなポイントに留意して、それを実現するための機能が実装されていったとのこと。
・エリアを自然に動き回っている
・周りに発生している環境の変化に反応する
・トレード・オフが発生する
・バラエティ感、単なるメッシュや色の変更ではなく、ワールドでの振る舞いなども

・スケルトンの仕様
スケルトンは全てのキャラクタで共通の1つのプロポーションのフォーマットを使用している。これにキャラクタによって付属品のスケルトンや、フェイシャル、補助骨などが付加されている。こうした共通のスケルトンを作成することにより、各アニメーションリソースをキャラクタ間で共有することができるため、その分バリエーションを持つことができるようになっている。スケルトン数はキャラクタが55、フェイシャルが35。

・Look-Atシステム
目、頭、上半身に関して、状況の変化に対応してプログラムコントロールが入る。更にフェイシャルアニメーションのバリエーションで状況に適したエモーションを表現することができたとのこと。

・アニメーション・レイヤー
Anchartedでも前述したようなアニメーションをレイヤーの概念でコントロールすることにより、1つしかない骨のアニメーションに対して、オフセットを行い、キャラクタに適したアニメーションへプロシージャルに調整することが可能になったとのこと。こういったテクニックは今年のセッションではよく聞かれる方法だった。

・群集のコントロール

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キャラクタの動きはゲーム・デザイナーがロードマップをフィールドに設定することで、設定されている。環境、プレイヤーキャラクタとのインタラクション、環境の変化などに対してAIが参照し、状況によってアニメーションをコントロールしている。群集はデフォルトでは均一な密度で移動しているが、意図的にスポーニングエリアを設定することで、群集のフィールドでの散らばり具合にムラを加えることが出来るとのこと。

・ソフトプッシュ

GDC2008

キャラクタとのインタラクションはまず、さまざまなケーススタディを簡単なキネマティックを作成して、プログラマにプレゼンテーションし、実装を行ったそうだ。直接的なインタラクションのほかに、プレイヤーキャラクタの行動に対して、取り巻くように見ていたり、避けるように移動するといった間接的なものも実装されている。
NPCは環境の変化に反応してアニメーションが変化するが、同じ条件でも環境の変化に気づかない、といった、ランダム性を持っており、あるNPCは事前に然るべき反応をアニメーションしても、ほかのNPCでは最後まで気がつかずにプレイヤーとインタラクション(この場合はソフトプッシュ)が発生するといったように、タイミングに関してもバリエーションを持っている。

こうした細かなレベルでのバリエーションをいくつも用意することにより、自然な群集の表現が実装されている。こうした環境を整えるために、AIのエンジニアは15名ほどのチームでこれらの課題に取り組んだとのこと。今年のセッションでは、アニメーションでプロシージャルな手法の事例がいくつも紹介されているが、こうした新たな専門化が必要になるという点で、アニメーションで表現する内容や、リソースの量などを基に、新たな手法か、オーソドックスな手法をとるか、検討する必要もあると感じた。

●Ehibition
機器展でのアニメーション、モーションキャプチャ関連を重点的に。モーションキャプチャシステムが老舗から新規参入製品まで数社出展されていた。自分が見た限り、VAICON以外はほぼ、ポピュラーなシステムは出展されていた感じ。

GDC2008
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・dimensional images
3つのカメラでイメージを収録して、サーフェースを生成、これを基にしてC3Dモーションキャプチャフォーマットのマーカー情報を生成するというシステム。キャプチャと同時にサーフェースとテクスチャの取得も可能なので、役者さんやスポーツ選手のモデルを使用する場合などは効率的ではないかと思う。イメージからのデータ生成で結構重い処理をしているようで、リアルタイムキャプチャには対応していない。マーカーレスというところでポイントが高い。

GDC2008
GDC2008

・Neuro Sky
ヘッドセットの額の部分と耳の後ろの3つのセンサーを使用した入力デバイス。目の集中度をセンシングしているとのこと。デモを自分でも体験してみたが、対象物に意識を集中することで、何も手を動かしていないのに、画面上のオブジェクトを動かすことができた。しかし、これ、結構疲れる。(笑)この手のデバイスは個人差があるのが難点だが、うまくゲーム性を絡めることで効果的に活用できる可能性はありそう。まずは、超能力トレーナーか?(笑)

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・PHASE SPACE MOTIONCAPTURE
カメラから発光源を投射するのではなく、マーカー自体が発光することで、カメラのレイアウトが現状の光学式システムより自由度があるのが特徴。マーカー自体の強度がどのくらいあるのかが気になるところ。

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・Motion Analysis Motioncapture
オーソドックスな光学式モーションキャプチャシステム。老舗的な存在。VAICONの出展はなし。

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・moven Motioncapture
こちらはジャイロ通信式MEMS慣性センサー方式のモーションキャプチャシステム。コンパクトにまとめられているので、動きの制限も少なそう。カメラを使用するタイプのシステムと異なり、マーカーのロストがないのがメリット。

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・Optitrack Motioncapture
100万円を切るモーションキャプチャシステムとして注目されている。今回は、いままで1キャラクタのみの収録だったシステムが2キャラクタに対応した新しいシステムが出展されていた。カメラは24台の構成を推奨。最小システムとして12台の構成で紹介されているが、3台のカメラでシンプルに手首のみの位置、傾きを算出して、3Dマウスのような使い方も会場で紹介されていた。こういった使い方は結構面白いことができそう。

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・Organic Motion
マーカーレス、イメージベースの全身モーションキャプチャシステム。昨年のSIGGRAPHでも出展していた。イメージベースで全身のサーフェースを生成し、キャリブレーションで各関節のセットアップも行っている。

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・Conture
dimensional imagesと同様にマーカーレスのフェイシャルキャプチャシステム。機材販売ではなく、収録サービス。顔に特殊なパウダーを塗布して、カメラからのイメージを基にサーフェースを生成。テクスチャの取得も可能。

昨年と比較すると、キャプチャ系の出展は多くなっていると感じた。アニメーションリソースは今後も増加傾向にある。アニメーションの生産性効率化という面でモーションキャプチャはポピュラーな手法ではあるが、低価格化や顔などの専用化、現状、ポピュラーな光学式の問題を改善した新たな方式など、まだまだいろいろな可能性があると思った。

GDC2008

これで今年のGDCは終了。アニメーション関連では、プロシージャル・アニメーションが実践され、タイトルでの事例で多く見られたことが印象的だった。プロシージャルアニメーションという手法をとる理由として、より複雑な動きを表現したいというニーズのほかに、膨大化するリソースをいかに効率よく作成して行く1つの手段として捕らえられているのも、興味深いところ。プロシージャルな環境構築にはプログラマとクリエイターの連携がより必要になるということ、これからの課題として、大量のリソース管理、デバックをいかに行っていくか、といったアニメーション以外の局面でもいろいろと影響はありそう。対して、日本の開発シーンにおけるアニメーション手法は?まずは、先行した事例を参考にいろいろ考えるべきことがありそうだ。