シーグラ日記`04 -8.09-

カンファレンスも2日目になった。来場者もかなり増えてきている。大きなホールのカンファレンス会場は2つあるが、人気のあるカンファレンスはFULLになりそうな場合もある。99年の時より日程が1日減って、コースとペーパーが重なる日程になっているため、どうしても受講をあきらめなければならないカンファレンスもあるので、スケジュールを考えると頭が痛い・・・

Art-Directed Technology: Anatomy of a “Shrek 2” Sequence 
Shrek 2のメイキング。こういったひとつの作品に関してプリプロダクションからプロダクションワークまで一貫して事例が紹介されるカンファレンスはとても参考になる。特に個人的にプロジェクトで関わることが多い、ワークフローやRiging(キャラクタセットアップ)は今回も非常に勉強になった。
プリプロダクションでの脚本やストリーボードでの検証、詳細なアートワークといった内容の紹介を見て、初期段階で徹底した検証や設定がなされている点が日本のゲーム開発現場とは全く異なると感じた。(もしかしたら自分の周りの開発現場だけの話かもしれないが・・・)
プリプロダクションの段階では、脚本や美術に加えてテクニカルディレクタ、アニメーションテクニカルディレクタ、リグ担当者が加わり、技術的な検証も同時に行われ、プロジェクトにとってどの程度チャレンジするものがあるのか、どの程度のボリュームがあるのか、徹底した検証が行われる。モデラーやアニメーターがプロジェクトに参加するのはその段階が完了した時点からになる。こうしたプリプロダクションワーク、プロダクションワークといった明確な線引きは日本のゲーム開発現場では、意識が薄いかもしれない。映像製作とゲームというコンテンツの違いはあるが、1年以上の期間を費やすプロジェクトという見方をすれば、こうした考え方はゲーム開発でもより意識する必要があるのではないかと感じた。

キャラクタRigに関しては新キャラクタの長靴を履いたネコのキャラクタリグの事例が紹介された。このキャラクタは骨格は実際のネコに近くて、2本足で手も人間のような使い方をするといったデザインで、ある場合には人間的な動き、ある場合にはリアルなネコの動きと行った感じで使い分けが行われている。この際に厄介になるのが、ネコ本来の動きのコントロールと人間的な動きのコントロールでは制御が異なるという点である。これに対応するために、体のコントロールだけで540あるとのこと。その他にもベルトのコントロールや帽子のダイナミックスと手動コントロールの切り替えなど、複雑なコントロールが実装されている。こうした複雑なコントロールを実装するためには、徹底したプリプロダクションワークによって、デザインの変更や動きの仕様など後戻りは無いという状態が必要になる。平行作業になることが多い日本とはこの部分でも異なる。

Emerging Technologies 
個人的にはSIGGRAPHの中で一番楽しみにしているセッションだ。圧倒的に日本からの出展が多いのが特徴だ。どちらかというと工学系寄りの趣が強いアート作品、インスタレーション作品は発表の場が限られているためらしい。個人的に印象深かったものをピックアップしてみた。

Reactive 
液晶モニタ上部にUSBカメラが鑑賞者の画像を取り込み、鑑賞者の動きに対応してイメージが変化するといったもの。インタフェースがとてもシンプルだが、挙動によって変化するイメージがとても面白かった。

3D Spatial Narrative – “The Island of Misfit Toys” 
液晶ディスプレイを窓に見立てて固定された柱の周りを動かすと、中のイメージが対応して変化するというもの。追従性はなかなか良くて、3Dシーンを表示させると色々出来そうだった。

Remote Furniture:Interactive Art Installation for Public Space 
これはかなりやられた。見かけより体感的にかなり傾く仕組みで、思わず声が出てしまう。自分がやっても、他人が驚く様子を見るのも面白い。こうした人間の挙動自体もインスタレーション作品の一部だと感じることが出来る作品だった。

Novel Infrared Touch-Screen Technology and Associated Artwork 
スクリーンに手で線を描くと3Dオブジェクトが生成される。体全体を使ったインターフェースが面白かった。

Healing Series 
床に模様がプロジェクタで投射されており、床に乗ると体の周りを避けるように模様が再構築されるといったもの。模様の動きがアメーバーのような有機的な動きで面白い。

Sound Flakes 
磁気センサーを仕込んだ柄杓でプールに投射された魚や花をすくうと、音楽が流れて柄杓に表示され、動かしても追従する。プール内で水をかき混ぜてもオブジェクトが挙動する。シンプルな仕組みだが、遊び方がよく考えられていて面白かった。分かりやすいインターフェースに不思議な感覚や演出。この部分はゲームにも通ずるものを感じた。

Swimming Across the Pacific: A Virtual Swimming Interface 
バーチャル水泳マシン。数年前にロッククライミングマシンなどもあったが・・・ヘッドマウントに脚の部分に抵抗が発生する仕組みが組み込まれている。腕、脚にセンサを取り付けて、自分の泳ぎを見ることも出来る。実際に体験してみたが、実際の水泳同様、結構な運動量だった。

Snared Illumination 
一見ただの静止画が表示されたモニタを特殊なめがねで見ると、裸眼では見られないイメージが現れるというもの。めがねの種類によって表示される内容が異なる点も面白い。

GelForce 
投射されているシートに仕込まれている工学的なセンサーによって、押す力と方向が感知されてイメージが歪む。センサー部分の感触が適度な弾力があるが、実際にはカメラで力の状態を評価しているのが面白かった。

Inter-Culture Computing: ZENetic Computer 
禅をテーマにした作品。水墨画的な部本を配置すると、奥行きを持った空間に変化される。視点を変更してカメラフレームを調整すると、フレームに入っているエレメントの組み合わせに関連する句が読まれる。色々話を聞いたのだが、部品をレイアウトする部分に日本画の考え方を取り入れたりと細かな工夫が沢山されている。

THE INVISIBLE TRAIN:A COLLABORATIVE HANDHELD AUGMENTED REALITY DEMONSTRATOR 
イメージ認識によるトラッキングシステムを応用した列車衝突回避ゲーム。昨年もこの技術の応用作品が出展されていた。今回はカメラに投影されたモニターではなく、ゲームコンソールの代わりに無線LANを装備したPDAのカメラが使用されている。PDAからイメージがPCに送られて、画像認識により適切なトラッキング情報がPDAに返されて、オブジェクトが表示されるといった仕組みになっている。

 

このスペシャル・セッションはコンテスト形式のイベントでリアルタイム3Dのデモを3分間行い、観客はスクリーンに表示されたDemo Dieのどちらかにレーザーポインタをあてて得点をカウントするといった仕組みだ。映像的なものやゲーム、3Dカタログなどプレゼンテーションの内容は様々だ。中には急にマシンの調子が悪くなって、デモが出来ないままレーザーポイントでDieにされてしまったり、インパクトのあるデモには惜しみない拍手が起こるといった具合に殆どお祭りといった趣だった。
個人的には、こうしたお祭り的なイベントはSIGGRAPHで一番CG業界のエネルギーを感じるところだ。このセッションに限らず、アニメーションシアターやアートショーなど素晴らしい作品にはそれ相応の反応がある。